アルバム名:Colossal Head (1996) アーティスト名:ロス・ロボス
ロス・ロボスは、1974年にイーストLAで結成されたチカーノ・バンド。ロックを基本に、テックスメックス、カントリー等、様々な要素を持った音楽を演奏します。87年、リッチー・ヴァレンスの短い生涯を描いてヒットした映画「ラ★バンバ」の同名主題歌が、世界的な大ヒットとなりました。「ラ・バンバ」は、メキシコ民謡をロックに仕立てたリッチー・ヴァレンス58年のヒット曲ですが、スペイン語で歌われた全米初のヒットでもあります。半世紀近く活躍するラテン・ロックの大御所ロス・ロボスの目立ったヒットはこれだけというのも不思議な気がします。
ラテン・ロックというジャンルは、はっきりとした傾向を持っていません。サンタナの名前が一番に来ますが、あれはサンタナ独自の音楽であり、追随者がいるわけではありません。ロス・ロボスも同様です。要はヒスパニック系が演奏していればラテン・ロックと言われる傾向があるということです。Netflixが南米のロックの歴史をミニ・シリーズ化した「魂の叫び」を見ました。基本的には、米英音楽のコピーながら、時代と共に進み、自国語の歌詞や自国の民族音楽に目覚めていくという過程をたどっています。ここにも、ラテン・ロックという概念はなく、あくまでも南米各国のロックです。
ただ、ロス・ロボスの音楽は、他の米国の白人バンドとは明らかに異なる独特のセンスを持ったロックです。メキシカンそのものもありますが、基本的はカントリー・ロック・バンドです。そこに強いビート、ユニークなテンポ、少し投げやりなムードが、ロス・ロボス・ワールドを構成しています。92年にリリースされた「Kiko」は実験的な名作と言われます。実に丁寧に作り込んだ作品ですが、かなり肩に力が入っています。「Colossal Head」は、Kikoで展開されたアイデアが、よりナチュラルっぽく、よりストリートっぽく、よりファンクっぽく展開されます。彼らの独特なセンスがストレートに伝わります。チカーノによるロックの傑作だと思います。
Colossal Head は、直訳すれば”巨大な頭”となりますが、通常、オルメカ文明が残した巨石人頭像を指します。オルメカ文明は、紀元15~4世紀頃、メキシコに栄えた文明であり、アメリカ大陸最初の文明とされます。2~3mもあるという巨石人頭像は、オルメカ文明発見の端緒となった石像でもあります。それをアルバム・タイトルとするあたりに、チカーノのプライドを感じます。アルバムのなかでは「Mas y Mas」が、デイヴィッド・ヒタルゴの特徴的な高音ヴォーカルとテクニック抜群のギターが冴えわたり、ロス・ロボスの代表曲となりました。個人的には、「Can't Stop the Rain」がお気に入り。ファンクの名曲だと思います。
アルバム「Colossal Head」には、どこか斜に構えたシャープさのようなものを感じます。とは言え、曲調は、実に多様です。それがロス・ロボスらしさなのでしょう。アメリカで生まれ育ったものの、メキシコ人であることを常に意識させられてきたデラシネの感性が感じられます。様々な要素の音楽と言っても、彼らにとっては垣根などは無く、それが彼らの音楽なのでしょう。ロス・ロボスは、不思議な魅力にあふれています。(写真出典:amazon.com)