2020年7月10日金曜日

たんす預金

2004年の中越地震の際、エコノミークラス症候群が注目されました。自宅前の自家用車で避難生活を送る人々の間に症状が広がり、死者も出ました。食事や救援物資も豊富な避難所があるにも関わらず、避難場所として車を選択する理由が分かりませんでした。そこで、土地の人たちに聞いてみたところ、多かった答えは、ペットでした。犬は家族だ、避難所はペット禁止だからやむを得ない、というわけです。

地元金融機関で、この話をすると、「違うよ。たんす預金があるから家を離れられないんだよ。」と言われました。銀行に預ければ安心じゃないですか、と聞くと「田舎の人は、隣人に、いくら金を持っているかを知られたくないものだ。銀行員は、近所の息子や娘。それが嫌なんだよ。」守秘義務や職業倫理と言っても、通用しないのでしょうね。農村の保守性からすれば、納得できる話です。

日本のたんす預金は、50~80兆円と推定されています。個人の現預金は1,000兆円ですから、結構な規模です。その動機は、金融機関不審、へそくり、脱税等、いずれにしても「人に知られたくない」ということだと思われます。デメリットとしては、盗難、火災、災害、そして利益獲得機会の喪失。東日本大震災では、津波で相当のたんす預金が流出したものとみられます。近年続く豪雨水害でも、かなり流出していることでしょう。

社会的問題としては、流通するマネーの減少が、経済規模を縮小することです。米国では、麻薬合法化の議論が絶えません。非合法であるために、犯罪組織拡大、中毒の野放図な拡大等とともに、年間16兆円と言われるナルコ・マネーのアングラ化が進んでいます。また、ヴェトナムで聞いた話ですが、ヴェトナム人は、自国通貨であるドンを信用していないので、米ドルやゴールドを持ちたがると言います。その規模は、一人当たりGDPに換算すれば2,000ドル超に相当するとのこと。これを表の経済に参入すれば、ヴェトナムの一人当たりGDPは、一気に倍増します。

ナルコ・マネーも、ヴェトナムの米ドルも、流通している限りにおいては、なにがしかの富を生みます。しかし、たんす預金はいけません。完全に死んだお金です。
アメリカ人の好む紙幣のゴムバンドロール     写真出典:pixabay

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