スペイン領カナリア諸島は、モロッコの西の大西洋上に位置する火山島群です。北ヨーロッパの人たちがバケーシションで押し寄せる島としても有名です。ロンドンの駐在員をしていた友人は、毎年、クリスマス・バケーションをカナリア諸島で家族と過ごしていました。ヨーロッパ中に見るべき所が多くあるのに、なんでそんな辺境まで行くのかと聞くと、一言、太陽だ、と言っていました。ロンドン以上に、陽の光を必要とするノルウェーの人たちにもなじみ深い島なのでしょう。そのラ・パルマ島で、2021年、クンブレ・ビエハ火山が噴火し、多くの住居や農地が失われました。記憶に新しい大災害です。クンブレ・ビエハ火山は、将来の噴火によって山体崩壊を起こす可能性があり、発生する巨大津波は大西洋沿岸全域に大打撃を与えると想定されています。
ノルウェーは地震国ではありませんが、津波には感心の高い国です。フィヨルドで、周囲の山が海に崩れ落ちると、入江の奥は巨大な津波に襲われることになります。実際、希に発生するらしいのですが、それをテーマとした映画「ザ・ウェイブ」は、2015年、ノルウェー最大のヒット作となりました。また、近年、ノルウェーの人々が津波に敏感になっている理由が他にもあります。2023年、グリーンランドで、巨大な氷河の崩落が起き、津波の遡上高は200mに達したとされます。その津波は、対岸のノルウェーにも到達しました。氷河崩落の原因は、地震ではなく、地球温暖化の影響とされています。ノルウェーは、新たな津波の脅威にされているわけです。ノルウェー人が恐れる崩落による津波と、我々が知っている地震による津波とでは、大きな違いがあります。
プレート型地震の場合、海底の隆起とともに海面が上昇して津波が発生します。山体や氷塊の崩落による津波は、海面が受けた衝撃で発生します。巨大な水しぶきとも言えます。波高は、地震の場合よりも高くなる可能性があります。津波の波高として観測史上最大とされるのが、1958年、アラスカのリツヤ湾で起きた津波です。地震によって発生した山体崩落が起こした津波の高さは、524mに達したと推定されています。リツヤ湾が狭いフィヨルドであったことが波高の高さにつながったのでしょう。私たちが知っている津波は、第一波の前に水が引いたり、第二波、第三波の方が波高が高くなります。「ラ・パルマ」では第二波は無視されています。水しぶき型では、第一波が最も高くなるであろうことは、池に石を放った際の波紋からも想像できます。
ただし、フィヨルドで起きる津波は、両側の山に跳ね返って何度も繰り返され、場合によっては第一波よりも跳ね返り波の方が高くなることも考えられます。今回の想定は、洋上での水しぶきなので、第二波は無視できると考えたのでしょう。あるいは、プロット上の必要性から無視したのかもしれません。プロット上と言えば、デザスター映画でお馴染みのパターンの一つは、混乱を恐れて行政の対応が遅れることです。今回も同じなのですが、実際には、数値基準が設定され、各段階でのアクションが規定されているものと考えます。いかに娯楽作品とはいえ、ちょっとスペイン政府に失礼かなと思いました。「ラ・パルマ」のヒットは結構ですが、それで観光客が減るなら、スペイン政府にとっては津波級の大打撃です。あるいは、オーバーツーリズム対策として、それをねらっているのかもしれません。(写真出典:filmarks.com)