2025年12月14日日曜日

梁盤秘抄#40 There's a Riot Goin' On

アルバム名: There's a Riot Goin' On                                          アーティスト: Sly and the Family Stone

過日、久々に来日したシーラ・Eことシーラ・エスコビドゥのライブに行きました。メンバーの一人が、スライ・ストーンの従姉妹だったことを友人に話したら、スライ・ストーンが6月に亡くなっていたことを知らされました。まったく知らなかったので、驚きました。ファンク・ミュージックの頂点を極めた天才は、薬物はじめ多くの問題を抱えて転落していきましたが、その音楽はいまだにパワーを持ち続けています。私にとって、スライは神様であり、若い頃に最も多く聞いたミュージシャンでもあります。また、15年ほど前、ブルーノートでルーファスのライブにスライが客演したおり、客席に降りてきたスライと肩を組んで”I Want to Take You Higher”を歌えたことは、我が人生最高の出来事でもありました。享年82歳。合掌。

スライは、1943年、テキサスのデントンで生まれ、ベイエリアのヴァレーオで育っています。幼少期から天才ぶりを発揮し、教会で歌いながら、11歳までにキーボード、ギター、ドラム等をマスターしていたようです。いくつかバンドに参加したり、自ら結成した後、20歳台前半でラジオのDJやレコード・プロデューサーとして活躍します。ベイエリアでは知られる存在になっていたようですが、興味深いことに、最初のDJ時代、白人音楽をよく流していたようです。後に、スライの音楽は、ソウル、ポップ、ロックを融合した新しい音楽として脚光を集めることになります。1967年には、スライ&ファミリー・ストーンが結成されますが、メンバーは男女混成、黒人白人混成という当時としては画期的な構成のバンドでした。

1960年代のスライの音楽は、イケイケ、ノリノリで観客を煽るスタイルが多かったと思います。バンドは、1969年のアルバム「Stand!」で初めてプラチナ・ディスクを獲得します。特に「Stand!」や「I Want to Take You Higher」といった曲は、暴動を扇動するリスクがあるとして、ライブには常にFBIが張り付いていました。つまり、彼らの音楽は、1960年代のカウンター・カルチャーやブラック・パワーといったムーブメントを背景に成立していたわけです。しかし、このアルバム以降、ドラッグやメンバーの不仲でバンド活動は停滞し、ようやく2年後の1971年にリリースされたのが「There's a Riot Goin' On」でした。このアルバムは、全米チャートでも、ソウル・チャートでもNo.1に輝き、バンドとしては最大のセールスとなりました。

ここから、スライの音楽は、より内省的で、よりシンプルなものへと変化し、強烈なファンクのリズムだけが強調されています。歴史的名盤となったこのアルバムは、狂乱の60年代の終焉を象徴しており、それをストレートに伝えるのがタイトル曲の"There's a Riot Goin' On"です。演奏時間は0:00、つまり暴動は存在したが、幻想に過ぎなかったというメッセージです。制作は、まずスライが一人で演奏し、それにメンバー個々が重ねて録音するという特異なスタイルを取っています。アルバムの最終曲は”Thank You for Talkin' to Me Africa”です。この曲は70年のシングル・ヒット”Thank You (Falettinme Be Mice Elf Agin)”のリメイクです。サブタイトルは”For Let Me Be Myself Again”を意味しています。60年代の熱狂から覚め、冷静になったということなのでしょう。また、この曲は、ベースのスラップ奏法が初めて登場したことでも知られています。

この曲のシングル版は、まだ60年代のスライのテイストを残しているものの、ファンク色が強く、歌詞は完全に70年代のスライになっています。アルバム版では、テンポも落とし、よりシンプルな演奏になっています。この曲は、アルバム「Stand!」と「There's a Riot Goin' On」をリレーする曲だったと言えます。究極のファンク・アルバムと言える「There's a Riot Goin' On」は、マイルス・デイヴィスやジェームス・ブラウンにも大きな影響を与え、1999年にはグラミー賞の殿堂入りも果たしています。ちなみに、冒頭に触れたシーラ・Eですが、プリンス一派として知られています。希代の天才プリンスの音楽はスライの影響を大きく受けています。デビュー間もないプリンスが、当時すでにスターだったルーファスのチャカ・カーンを、スライの声を真似た電話で呼び出し、共演にこぎつけた話は有名です。(写真出典:amazon.co.jp)