2025年6月24日火曜日

ミールス

麹町の「純印度料理 アジャンタ」は、何を食べても美味しい名店です。チャンドラ・ボースのもとで、兄とともにインド独立運動に参加していたジャヤ・ムールティーが、1957年に阿佐ヶ谷に開いたのがアジャンタの始まりでした。1949年開業のナイル・レストランの初代ナイルさんも、ビハリ・ボースとともにインド独立運動を戦った闘士でした。インド独立運動が日本にインド料理を広めたというわけです。アジャンタは、1961年、九段下に移転します。当時、南インド料理と銘打っていたのアジャンタだけだったと思います。美味しいのですが、とにかく辛いという印象でした。1985年には現在の麹町へと移転。以降、辛さは角がとれていったように思います。こっちの舌が慣れてきたせいかもしれませんが。

インド料理店が、どこでも見かけるようになったのは1980年頃からではないかと思います。当時は北インド系がメインでした。南インド系を見かけるようになったのは2000年前後からでした。コンピューターの2000年問題、いわゆるY2Kに備えるために、バンガロールはじめ南インドからIT技術者が多く来日したことがきっかけだったとされます。南インド系料理店が増えると、一気にミールスの知名度が上がります。ミールスは、南インドのワン・プレート・スタイルの定食です。米と複数の副菜で構成され、本格的にはバナナの葉に乗せて提供されます。北インドにもターリーという定食がありますが、小麦文化の北部では米ではなくナンが中心になります。ちなみに、ターリーは大皿という意味ですが、ミールスとは英語のMealが転じた言葉だとされます。

ミールスの主食は米ですが、豆せんべいのパパドが添えられます。パパドは砕いて米の上に散らして食べます。副菜には数種類の料理が並びます。日によって異なったり、選択できる店もありますが、南インドの辛い味噌汁といった風情のサンバールは必ず付いてきます。豆スープのラッサムも添えられることが多いと思います。他の副菜は、様々ですが、おおむね野菜の煮込みが中心です。東京の場合、店によっては、肉系もありますが、南インドでは考えられないはずです。南インドに限らず、インドは、基本的には野菜中心の食事をとる国ですから。また、アチャールも添えられます。アチャールには、実に様々なスタイルがありますが、発酵させたインド風の漬物といったところです。そして、食後の口直しとしてのヨーグルトもミールスの定番です。

また、南インド料理と言えば、忘れてはいけないものにドーサがあります。米と豆の粉に水を加えて練り上げて発酵させた生地を薄く円形に伸ばして焼きます。見た目は巨大なクレープですが、焼き上がると、それを巻いて棒状にして供します。食感も含めて、大好きなのですが、結構、満腹になります。米が主食のミールスと一緒に食べると、明らかに食べ過ぎになります。インドは、フラット・ブレッド文化圏の国ですが、国が大きいだけに、その種類の多さには驚かされます。北インドでは、ナンをはじめ、無発酵のチャパティ、揚げたプーリーなどが代表だと思いますが、南インドになると、ドーサの他に、蒸しパンのようなイドゥリ、クロワッサン的なパロッタなどがあります。ナンに詰め物をしたクルチャの一種チーズ・クルチャは、一時期、東京でも流行しました。

クアラルンプールで食べたドライ・ラクサが気に入り、家で再現を試みています。味のポイントは、えびだしパウダー、カレー粉、ココナツミルク、そしてサンバル・ペーストだと思っています。サンバル・ペーストは、何種類かクアラルンプールのスーパーで仕入れてきました。基本的には、南インドのサンバール・パウダーと同じだと思ったのですが、サンバル・パウダーは見つけられませんでした。名前は似ていますが、どうも別物であり、マレーシアのサンバルにはパウダー・タイプというものは存在しないようです。酸味と辛味は、よく似ているように思いますが、インドのサンバールに対して、マレーシアのサンバルは、エビなども入れて発酵させた辛味調味料であり、より複雑な味がします。(写真出典:macaro-ni.jp)

パーム・オイル