2020年8月31日月曜日

八月の濡れた砂

大学入学とともに、縁あって学生寮に入れてもらいました。寮生20数名の自治寮に1年半お世話になり、その後はアパートで暮らしました。寮を出た理由は、徹夜麻雀、いわゆる徹マンです。固定的メンバーに組み込まれ、毎夜、先輩たちと夜中から朝まで麻雀三昧の日々が続きました。楽しかったのですが、さすがに自由を求めて退寮しました。

74年、地方の大学には、まだ全共闘時代の空気が残っていました。寮には、個性的な先輩も多く、なかでも大学生活8年目という先輩2人がおり、様々なことを教わりました。ある日、そのうちの一人が、俺のアジトへ連れていってやる、といってヒッピーのたまり場のような飲み屋へ連れていかれました。二人で話をしていると、周りのヒッピーたちも参加してきて、小さな店は文学論議で大いに盛り上がりました。気が付けば、真夜中を過ぎ、雨も降り始めていました。

雨の音に誘われるように誰かが「八月の濡れた砂」をボソボソと歌い始めました。すると、瞬く間に皆が歌いはじめ、ついには皆で外に出て肩を組み、雨に濡れながらの大合唱となりました。わけもなく涙が出始め、見れば皆も泣いていました。全共闘運動は見事に敗北し、長かった高度成長もついに終わり、虚無感が漂う時代でした。時代の変化は感じつつも、変化に対応できない若者たちの自己憐憫と言えばそれまでです。そんな時代の空気をストレートに伝えたのが「八月の濡れた砂」という青春映画です。そしてその主題歌は、一瞬にして、時代の空気で空間を満たす魔力を持っていたと言えます。

「八月の濡れた砂」は、1971年の藤田敏八監督作品。ロマンポルノ移行前の日活最後の映画です。同名の主題歌は、後に井上陽水と結婚した石川セリが歌いました。まず、歌があり、それにインスパイアされた藤田敏八が、わずか25日で撮りあげた映画です。映画と主題歌の関係が、他の映画に比べて一層濃いわけです。71年の公開終了後から若者の間で評判が広がり、1年後、特別に再公開されたという伝説の映画でもあります。私も二年続けて見に行きました。
写真出典:amazon.co.jp

「新世紀ロマンティクス」