監督:オズグッド・パーキンス 2024年アメリカ
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アメリカでの評価が高く、大ヒットし、B級映画なのにニコラス・ケイジが出演していて、アンソニー・パーキンスの息子が監督で、しかも配給がネオンだというので観に行きました。行ったことが悔やまれるほどの駄作でした。そもそもホラー・サスペンスは好みではないこともありますが、あまりにも定番のモティーフをゴチャゴチャ詰め込み過ぎており、かつ基本的な映画文法すらできていないように思いました。ただ、プロットの着想は新鮮で面白いと思いました。同じプロットを、もう少し脚本を整理して、もう少し腕の立つ監督に撮らせたら、結構、面白い映画になるのではないかと思いました。配給会社のネオンは、2017年に設立された新しい会社ですが、続けざまに良い映画をリリースしています。ヒット作や話題作を配給する確率だけなら、A24をはるかにしのいでいると思います。「パラサイト」、「アノーラ」はアカデミー作品賞、「悲しみのトライアングル」、「落下の解剖学」はカンヌでパルム・ドールを獲得し、他にも「アイ、トーニャ」、「パーフェクト・デイズ」、「フェラーリ」等があり、なかでも「燃ゆる女の肖像」、「わたしは最悪。」は好きな映画でした。とにかく勢いのある配給会社だと思います。映画の配給会社は、配給に関する一切の権限を持ち、時には製作に金も口も出す場合もあります。もちろん、マーケティングも担当するわけですが、本作のマーケティングは、とりわけ見事だったと言えそうです。
ネオンが採ったマーケティング手法は、いわゆるゲリラ・マーケティングだったようです。ゲリラ・マーケティングとは、TVやラジオCM、チラシ・パンフレット、ポスターといった伝統的な広告手法に依存しないマーケティングです。1980年代に知られるようになった手法です。ネットの時代になると、SNS等を活用した様々な手法が生まれました。今は規制されているステルス・マーケティング、いわゆるステマも典型的なゲリラ・マーケティング手法です。ネオンは、YouTubeやSNSを活用して断片的で刺激的な各種情報を流し、話題性を高めっていったようです。なかでも、ビルボードに電話番号だけを掲載し、電話すると気味の悪いメッセージが流れるといった手法は斬新で注目を集めたようです。
つまり、マーケティングの成功により、ロングレッグスは、公開前から一定の話題性を持っていたわけです。マーケティングのターゲットは全国民ではなく、主にホラー映画ファンが食いつくように仕掛けられていたわけです。ターゲットを絞ることからマーケティングは始まります。基本中の基本です。カルト的なホラー映画ファンたちがSNS上で騒げば、拡散する可能性は極めて高いと想定できます。うまい作戦を考えたものです。批評家たちの本作に対する評価は高いのですが、私にはイマイチ映画としか思えません。大ヒットしたことは間違いないのですが、内容よりもマーケティングの成功がヒットの要因だったように思えます。ある意味、SNSが生んだヒット作と言ってもいいのかもしれません。
監督の父親であるアンソニー・パーキンスは、青春スターとしてキャリアをスタートさせていますが、なんといってもヒッチコックの「サイコ」(1960)のノーマン・ベイツ役で名前を上げた人です。同性愛や麻薬でスキャンダルを起こしたことでも知られますが、生涯、ノーマン・ベイツに取り憑かれた人だったと思います。それは単なる当たり役を超えており、本人の本質そのものといった風情もありました。その息子もホラー映画の役者、監督になっているわけですから、ほぼ家業に近いものがあります。ちなみに監督の母親は、イタリアのファッション・デザイナーであるエルザ・スキャパレッリの孫で、同時多発テロの際、ワールド・トレイド・センターに突っ込んだ飛行機に搭乗していました。(写真出典:en.wikipedia.org)