2025年は、十干の”乙”、十二支の”巳”の年にあたります。乙巳は、”きのとみ”、あるいは”いつし”と読みます。乙は、十干の2番目にあたり、誕生間もない植物の幹がまだ伸びきらずに曲がっている状態を指すとされます。陰陽五行思想で言えば、”木の陰”とされ、成長の象徴である”木”の穏やかな進展を表わします。一方、十二支の巳は6番目にあたり、植物の成長が止む、つまり極限に達した状態を表わすとされます。陰陽五行では”火の陰”とされます。陰陽五行は、十干と十二支の組合せが重視されます。乙と巳の組合せは”木生火” といって、木が燃えて火を生む相生(そうじょう)という関係になります。木をこすって火を起すわけですから理解できる関係です。
一言で乙巳の年を表わせば、再生と変化の年ということになります。蓄積されたものに火が着き一気に燃え上がるといったイメージでしょうか。過去の乙巳の年に何が起きていたのかを見ると、なかなかに興味深いものがあります。そのものズバリと言えるのが645年に起きた「乙巳(いっし)の変」ということになります。中大兄皇子と中臣鎌足が、宮中で蘇我入鹿を暗殺した事件です。風雲急を告げる東アジア情勢に対応すべく、権勢を振う蘇我氏を廃し、天皇を中心とした中央集権国家を目指したとされます。以降、大化の改新が進められ、部族国家だった日本は中央集権的な律令国家へと変わっていきます。ただ、日本書紀は、中大兄皇子と中臣鎌足の正当性を強調すべく、ことさらに蘇我氏を悪く書いているともされます。
1185年の乙巳の年には、壇ノ浦の戦いで平家が敗れています。源氏は、奢れる平氏を滅亡させ、鎌倉幕府を開くことで武家政治の時代を開きました。武家政治の始まりは平家からという説もありますが、平家の隆盛は、あくまでも貴族政治の枠内にありました。10世紀の平将門は武士の台頭を、11世紀の八幡太郎義家は武家の台頭を象徴しています。12世紀後半に至り、平家が政治の実権を握り、源氏が貴族政治を終わらせたわけです。海外を見ると、1485年、30年に渡り戦われた薔薇戦争が終結しています。封建領主であるランカスター家とヨーク家による権力闘争ですが、ランカスター系のヘンリー7世がヨーク家を破り、かつヨーク家のエリザベス王女と結婚してテューダー朝を開きます。絶対王政がここに始ったわけです。
また、日本にとって、1905年の乙巳の年は極めて重要な年でありました。ポーツマス講和条約が締結され、18ヶ月間戦われた日露戦争が終わりました。ロシアでは革命が勃発し、戦争継続が困難となります。一方、開国から40年足らずという日本の国力も戦争継続は困難な状況にありました。大国ロシアから薄氷の勝利を得た日本は、不平等条約を解消し、列強の一角を占めるに至ります。まさに極東の小国が成しえた奇跡でした。その後、日本は遅れてきた帝国主義国としての道を突き進み、軍国主義を加速させていきます。そして、日露戦争からわずか40年後、日本は敗戦国として独立を失うことになります。武家政権は、その始まりも終わりも、乙巳の年に起こった変化をきっかけにしているとも言えそうです。
2025年の乙巳の年、何が起こるのかは神のみぞ知るということになります。既に、ロシアによるウクライナ侵略、イスラエルによるガザ回廊でのジェノサイド、そして地球温暖化に伴う異常気象といった大問題が存在しており、その行方が気になります。ただ、蓄積されたものに火が着き大きな変化が起きるという陰陽五行的な視点からすれば、以上に加え、台湾を巡る中国の動向、軍事面で自信を付けた北朝鮮の動向、欧州における難民問題等も気になるところです。国際政治に関しては、トランプ新大統領の言動こそが新たな展開を生む火種になるのでしょう。また、進行する情報革命についても気になります。人類は、情報革命のスピードに対応できていないように思われます。SNSやAIが人類にもたらすものは、予期せぬ形で新たな段階を迎える可能性もあります。