監督:チャド・スタエルスキ 原題:John Wick: Chapter 4 2023年アメリカ
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人気シリーズ4作目の完結編ですが、最高傑作が生まれたと思います。マーベル風のCGアクションが主流の時代にあって、リアルにこだわる怒濤の格闘シーンは見応えがあり、歴史に残るアクション映画になったと思います。キアヌ・リーブスと格闘家にしてスタントマン出身の監督のこだわりが詰まっています。監督は、ジョン・ウィック・シリーズ1作目でデビューし、シリーズ全作品を監督しています。シリーズ1作目は、やはりスタントマン出身で“ワイルド・スピード・シリーズ”や”ブリット・トレイン”を監督することになるデヴィッド・リーチとの共同監督でした。デヴィッド・リーチにとっても初監督作品でした。この二人に監督させたことは、制作総指揮をとるキアヌ・リーブスの大手柄だったと思います。ジョン・ウィックは、当初からシリーズ化が予定されていたわけではありません。リアルな格闘へのこだわり、そして暗殺者たちの裏帝国といったユニークな世界観も評判を呼び、大ヒットしてシリーズ化されました。キアヌ・リーブス主演で大ヒットしたウォシャウスキー兄弟の「マトリックス」(1999)も、同じように大ヒットを機にシリーズ化されました。マトリックスのアクションも、基本的には日本や香港映画の技法を多く取り入れていましたが、最も特徴的だったのは、バレットタイム等といった斬新な映像技術でした。バレットタイムは、高速で動く被写体を、多数のカメラで撮影し、マルチ・アングル的なスローモーション効果を出します。マトリックスでは、のけぞって銃弾をかわすシーンが有名になりました。
それはそれで衝撃的でしたが、おそらくキアヌ・リーブスは、よりリアルな格闘シーンを求めており、ジョン・ウィックに至ったのではないかと想像できます。マトリックスの象徴がバレットタイムだとすれば、ジョン・ウィックの象徴は”ガン・フー”ということになります。ガン・フーは、カンフーと銃器を組み合わせた格闘シーンのことです。ジョン・ウィックでは、格闘のなかで、至近距離から銃が撃たれます。そのこと自体は、実に理にかなっています。短銃は、数メートル離れただけで、命中確率が極端に落ちると聞きます。これまでの映画でも、至近距離からの発砲は珍しくありませんが、ジョン・ウィックでは、流れるような格闘の一部として多用されます。まるで、新しい格闘技の流派のようでもあります。
キアヌ・リーブスもチャド・スタエルスキ監督も、千葉真一の大ファンとして知られます。監督は、日本映画はアクション映画の原点とまで言っています。オートバイ好きのキアヌ・リーブスは鈴鹿8時間耐久ロードレースのスターターを務めたことがあり、監督は日本で修斗の試合に参加したこともあります。日本好きの二人が、アクション・シーンの舞台として大阪を入れたことは頷けるものがあります。デヴィッド・リーチ監督のブリット・トレインも新幹線が舞台でした。それはそれでいいのですが、アメリカのアクション映画に登場する日本のケバケバしいイメージには辟易します。そんな風に見えているのか、と心配になりますが、実際の日本というよりも、サニー千葉の映画に登場する背景が原点なのでしょう。
ガラス・ケースの部屋でのアクションは、ジョン・ウィックではお馴染みです。加えて、今回、驚かされたのは、パリの凱旋門での車と人が入り乱れるアクション、そしてモンマルトルの階段でのアクションです。優秀なスタントマンが世界中から招集されていたのでしょうが、フランス人が多いのではないかと思われます。そのレベルの高さに、さすがパルクールの国と、あらためて感心させられました。イップ・マンのドニー・イェン、人気SSWのリナ・サワヤマの出演も驚きでした。ジョン・ウィック・シリーズは、本作をもって終わりますが、ヒット・シリーズを終わらせる決断は尊敬に値します。ホテル・コンチネンタルのコンシェルジェ役でお馴染みのランス・レディックが、今年、亡くなったことも影響しているのかも知れません。なお、スピン・オフも計画され、その一つはNetflixで既に公開されています。(写真出典:movie.jorudan.co.jp)