2023年7月17日月曜日

「インディー・ジョーンズと運命のダイアル」

監督:ジェームズ・マンゴールド      2023年アメリカ 

☆☆☆

マンゴールド監督は、「3時10分、決断のとき」、ウルヴァリンもの、「フォードvsフェラーリ」等を撮ったヒット・メーカーです。とは言え、よくこの仕事を引き受けたな、と感心します。シリーズの前4作はスピルバーグの偉業であり、ファンと制作会社の期待も大きなものがあります。さらには80歳になったハリソン・フォードを主演とすることも含め、尋常ならざるプレッシャーがのしかかる仕事です。結果としては、なかなかうまいことこなしたな、という印象です。たたみかけるアクション、スピード感、長尺といった近年のアクション映画の傾向を盛り込み、今風の娯楽映画に仕立てています。それは、同時に、前4作が持っていた完成度の高い風合を失うことでもあります。ただ、それはそれでやむを得ない選択だったのだろうとは思います。

監督は、いかにもインディアナ・ジョーンズという設定を盛り込み、前4作の楽屋落ちを散りばめ、懐かしい役者も登場させる等、シリーズのファンをニヤリとさせることも忘れていません。ファンの期待にしっかり応えるというヒット・メーカーらしい見事な職人技です。山田洋次監督の寅さんシリーズがあれだけ長く続いた理由の一つも、まさにここにあります。予定調和と言えばそれまでですが、ファンにはそれがたまらないわけです。ただ、ノスタルジックなモティーフを多く盛り込みすぎて、長尺になった面もあると思います。また、高齢のハリソン・フォードをアクション映画の主役として使うための各種アイデアも、実によく考えられており、あるいは老人の自虐ネタで笑いをとることも忘れていません。

私にとっては、久々のポップ・コーン映画でした。インディアナ・ジョーンズほど、ポップ・コーンが似合う映画もありません。ただ、一方では、アクションの連続と長尺さに、正直なところ、ぐったり疲れてしました。前4作におけるスピルバーグの巧みさは、緊張と緩和というヒッチコック以来の伝統的なツボを押さえている点です。緩和パートでは笑いの要素を入れることもポイントです。マンゴールド監督も、それは心得ているのでしょうが、最近の緊張感の持続という傾向の方が勝っています。それは、コンピューター・ゲームで育った20~30歳代の観客の感性には、ピタリと合っているということなのでしょう。せいぜいがボード・ゲームという我々の世代にとっては、ちとヘヴィーなテイストです。

シリーズ第1作となった「レイダース 失われたアーク《聖櫃》」は、1981年に公開されています。前作から9年振りとなった4作目の「クリスタル・スカルの王国」は2008年の公開。それから、すでに15年が経過しています。ルーカス・フィルムが、ディズニーに身売りしたからこそ実現した映画と言えるのでしょう。そもそも3部作で終わるべき映画だったようにも思います。近年は、かつてのヒット作やヒット・シリーズのリメイクや続編作りがブームのように見えます。誰もインディアナ・ジョーンズは本作が最後とは言っていません。興業成績如何で次作もあり得るということなのでしょう。そこへいくと、前提が異なるとは言え、42年間9作で完結した「スター・ウォーズ」が潔く見えてきます。

今回、マクガフィンとして使われたのは、アンティキティラ島の機械です。1901年に発見されています。永らくオーパーツ(時代と場所にそぐわない人工物)とされてきました。近年では研究が進み、天体運行を計算するための精巧な機械であることがほぼ判明しています。数々の機械を発明したアルキメデスの作ではないかという説も確かにあります。いずれにしても、古代ギリシャの文明の高さは驚くべきものだと思います。現在、アンティキティラ島の機械はアテネ国立考古学博物館に展示されているようです。私は、NYで複製模型を見たことがありますが、とても2千年以上前に作られたものとは思えませんでした。(写真出典:eiga.com)

「新世紀ロマンティクス」