2021年5月25日火曜日

ジェット・ラグ

超音速旅客機コンコルドは、1976~2003年、ブリティッシュ・エアとエール・フランスの定期便として就航されていました。NYのJFK空港では、ロンドン便とパリ便が運航され、専用ターミナルもありました。巡航速度は、マッハ2を超え、NY-ロンドン間は、通常の約半分の3時間で飛んでいました。 大きな三角翼に細い機体、離着陸時には下方に折れ曲がるドループ・ノーズ等の外見から怪鳥とも呼ばれていました。エンジン音は、信じがたいほどうるさく、かなり遠くからでも、コンコルドだと分かるほどでした。客席は100席で、全席スーパー・ソニック・クラスというファースト・クラスの2割増しの料金設定。搭乗した人たちに聞くと、うるさい、狭い、壁が熱い、と言っていました。通常の旅客機の倍の高度を飛ぶのですが、それでも空気抵抗は大きく、壁は常に熱を持っていたようです。

就航時から、コンコルドは、ソニック・ブームと呼ばれる衝撃波による騒音の問題、機体が高額なうえに、席数が少なく、燃費が悪いという収益性の問題等を抱えていました。航空業界が価格競争に入ったこと、同時多発テロによって需要が低迷したこと、そして墜落事故が発生し、安全性に疑義が生じたことから、2003年に現役を引退しました。実際に運行された超音速旅客機は、後にも先にもコンコルドだけです。超音速旅客機の最大のメリットは速さということになりますが、商業ベースとしてはコストが見合わないわけです。私は、長時間のフライトが苦手です。例えば、東京ーNYの13時間など、考えるだけで気が滅入ります。それが、2~3時間で済むなら、大歓迎ですが、コスト以外にも、気になることがあります。

狭い空間に押し込められる時間は短い方がいいに決まっていますが、経験上、旅の疲れは、時間ではなく、移動距離に応じるのではないか、と考えます。加えて、ジェット・ラグ、いわゆる時差ボケの問題があります。東京とNYのフライトは約13時間かかり、時差も13時間です。東京を18時に発てば、NYには日本時間の7時に到着しますが、現地時間では20時となります。いかにフライト時間が短くなろうとも、これだけは変わらないわけです。音速旅客機で、東京を18時に発ち、3時間後にNYに到着するとします、日本時間では21時到着ですが、現地時間では10時ということになります。そうなると、むしろ13時間のフライトのなかで、多少なりともジェット・ラグへの備えができる方がいいようにも思えます。

ジェット・ラグは、実時間と体内時間のズレのことです。時差がある以上、やむを得ない代物です。西へ向かう方が、東向きに比べて、ジェット・ラグは軽くなります。地球の自転との関係とも言われます。睡眠と太陽光との関係から、到着した日は、ゴルフをするなど太陽光を浴びた方が、早くジェット・ラグを解消できるとも言われます。しかし、なかなか決定的な対処法はありません。強いて言えば、事前に、可能な限り、目的地の時間に合わせた睡眠に変えておくことくらいでしょうか。かつて、さる商社の方から、画期的なジェット・ラグ対策薬がある、と聞いたことがあります。それは、一つのパッケージのなかに、睡眠薬と覚せい剤がセットになっているのだそうです。効くことは効くのでしょうが、実際に販売しているとは思えません。

今でも、超音速旅客機の開発は行われているようです。ニーズも無いわけではないと思います。今も昔も、ビジネスにおいて、当事者が直接会うことの重要性は変わらないと思います。しかし、ネットの時代、その必要性は激減しているとも思います。そんな時代に、莫大なコストをかけて開発、運用すべきことか、と言えば、大いに疑問です。オリンピックのモットー「より速く、より高く、より強く」は、競技スポーツの世界を端的に表す言葉だと思います。この言葉は、かつてビジネスの場でも使われていました。ただ、今となっては、直線的に過ぎ、昭和の香り濃い言葉のように思えてしまいます。(写真出典:afpbb.com)

「新世紀ロマンティクス」