2020年7月9日木曜日

大統領のスーツ

ブルックス・ブラザース経営破綻のニュースには驚きました。コロナの影響もさることながら、そもそもビジネス・シーンでのカジュアル化が進み、スーツが売れない時代が来ていたというのです。ボタンダウンとネクタイはブルックスを愛用してきたので、ややショックです。

ブルックス・ブラザースは、1818年、NYに創業した世界最古の紳士服販売店。アメリカン・トラディショナル・スタイルの総本山。リンカーン、ケネディ等、歴代大統領たちが好んだスーツとしても有名です。トラッドのジャケットは、三つボタン段返り、ナチュラル・ショルダー、絞りのないウェスト、フック・ベント、フラップ・ポケット等の特徴があります。これらはすべて、20世紀初頭、ブルックス・ブラザースが発売した№1サックス・スーツに由来します。また、イギリスのレンジメンタル・タイとは逆向きのレップ・ストライプ・タイ、ボタンダウン・シャツといったアメリカを象徴するファッションもブルックス・ブラザース起源です。

私は、リクルート・スーツの頃から、J.Press派ですが、NY駐在時代、一時期、ブルックスのスーツを着ていました。日本ではお高かったので、アメリカにいる時にしかできないと思ったわけです。とにかく軽いんです。上質な生地を使っていることに加え、もう一つ軽い理由があります。ブルックス本店で既製服を購入すると、すぐ2階のオルタレーション室へ連れていかれます。オルタレーションは、日本風に言えば「お直し」です。10人くらいのテーラーと助手がおり、手早く採寸してくれます。1週間程度で完成。試着してみると、信じられないほど体にぴったり。それがスーツの軽さを生みます。もちろん、ポケットに様々詰め込めば重くなるわけですが、そもそもポケットに色んなものを詰めるような奴の着るスーツじゃないってことですよ。

私は、1978年に会社務めを始めて以来、ボタンダウン・シャツ以外着たことがありません。先輩たちが言うには、それは衝撃的なことだったようです。というのは、それまでボタンダウンは、不文律として禁じられていたらしいのです。私の頃から、やむなし、ということになったのでしょう。入社3年目、人事部に勤務していた際、夏にカーキのコットン・スーツを着ていきました。「なんだ、それは!」と怒られました。「米国東海岸では定番ですが、なにか」と反論すると「ここは日本だ!」とさらに怒られました。今では信じがたい大昔の話ですが、ファッションは世に連れ、ということですかね。
Brooks Brothers 346 Madison Ave.       出典:Ivy-Style.com

「新世紀ロマンティクス」