2020年7月13日月曜日

パリスの審判

結婚式に招待されなかった不和の女神エリスは、祝宴に乗り込み、最も美しい女神に与えるとして黄金の林檎を残します。三人の女神がこれを争います。ゼウスは、羊飼いパリスに審判を委ねます。パリスは、トロイの王子ですが、トロイを滅ぼす原因になるとの予言から、羊飼いにさせられていました。三美神は、それぞれパリスに賄賂を提示します。ヘーラーは富と権力、アテーナーは戦場の誉れと名声、アフロディーテーは最も美しい女性。パリスは、アフロディーテーに林檎を渡します。

アフロディーテーは、約束どおり、ギリシャで一番の美女ヘレネーを差し出します。パリスとヘレネーは恋に落ちますが、ヘレネーはスパルタ王の妻でした。二人は、トロイへと駆け落ちします。これを原因として、十年に及ぶギリシャとトロイの戦いが勃発。アキレスの活躍もありましたが、最終的には木馬の策略によってトロイは滅びます。ご存知「パリスの審判」です。ギリシャ神話らしい、示唆に富む因縁話です。実は、もう一つの「パリスの審判」があります。

1976年、パリで行われたワインの品評会です。建国二百年祭に際し、当時まだ無名だったカリフォルニア・ワインをプロモートするため、アメリカが提案した米仏ワイン対決です。ムートン・ロートシルトをはじめとする有名シャトー勢に、まだ無名に近かったナパ・ヴァレーが挑みます。まるで大人と子供の喧嘩。結果のしれた無謀な挑戦でした。フランスの名だたるワイン専門家たちが集められ、ブラインド・テイスティングが行われます。結果は、意外にも、赤・白ともナパ・ヴァレーのワインが一位に選ばれます。まさに天地がひっくり返った瞬間。ブルゴーニュのロマネ村じゃなくても、品種・土壌・天候に恵まれれば、世界中、どこでも美味しいワインができることが発見されたわけです。

「パリスの審判」は、世界に大きな変化をもたらしました。世界中でワインが作られるようになったのです。収まりのつかないフランスは、同じ条件で、10年後、20年後にパリスの審判を行っています。ただ、結果は、いずれもナパの勝ちだったそうです。とは言え、フランス・ワインの地位が低下したわけではありません。ナパを代表するオーパス・ワンは一本4~5万円。対して、ロマネ・コンティは、安いものでも、その10倍はします。
オーパス・ワン  写真出典:katachi-wine

「新世紀ロマンティクス」