2025年5月15日木曜日

スフレ

スフレの食感が大好きなのですが、初めて食べたのは、いつ、どこだったのか思い出せません。ただ、スフレと言えば、必ず思い出すのがNYのフランス料理店「ル・シルク」です。現在は閉店しているようですが、かつては予約が取りにくい人気店でした。名物の一つがスフレであり、調理に時間がかかるので、店に着いたら即刻注文すべきと言われていました。東京にもスフレ専門店があります。参宮橋の「ル・スフレ」です。西麻布にあった頃には何度か行ったのですが、参宮橋に越してからは行っていません。いつも行ってみたいとは思っています。

スフレは、ベースとなるカスタード・クリームやベシャメル・ソース系に、卵黄とメレンゲを加えて焼き上げます。スフレには、塩味、甘味、両方のタイプがあります。塩味系は、あまり馴染みがないのですが、チーズ、ハーブ、野菜、さらにはベーコン、鶏肉、魚介系を入れることもあるようです。デザートとしてのスフレもチョコレートやフルーツなどヴァリエーション豊富です。メレンゲの気泡がスフレを膨れさせフワフワ食感を生み出しますが、その食感にマッチしたベースが求められるわけです。なお、スフレは、その性格上、時間が経つとしぼんでいきます。スフレは、通常、丸い平底のスフレ皿で焼かれます。スフレ皿から上にはみ出して膨らんだ様子は、アントナン・カレームに由来するというコック帽のように見えます。

メレンゲこそがスフレの魅力を生み出しているわけですが、他にもメレンゲを用いたスウィーツは多くあります。なかでもシフォン・ケーキは、スフレ同様、フワッとした食感がウリです。比較すると、スフレの方が、キメ細かく軽やかなフワフワ感を感じ、シフォン・ケーキは保型性が高い分しっかりしています。例えば、スポンジ・ケーキは生地作りの段階で全卵を投入しますが、スフレやシフォン・ケーキは、気泡を活かすためにメレンゲを泡立ててから卵黄を混ぜます。ただ、スフレは、ベースを作る際、加熱して小麦粉のデンプンを糊化させてからメレンゲと混ぜます。一方、シフォン・ケーキは、ほとんど糊化させずにメレンゲを入れていきます。両者の違いは、油分や容器にもありますが、この糊化が最大の違いなのでしょう。

スフレの歴史は、17世紀のフランスで、菓子職人が卵白に砂糖を加えて焼くと膨らむことを発見した瞬間にはじまります。Soufflé は、フランス語で”膨らんだ”を意味します。スフレの文献上の初出は、18世紀前期のヴァンサン・ラ・シャペルの著作とされます。ラ・シャペルは、英国やオランダの貴族に使えたフランス人シェフでした。彼が著わした「近代料理」は18世紀最高の料理本とされ、その後に流行する豪華な挿絵入り料理本の先駆けになったとも言われます。スフレを洗練させ、普及させたのは、19世紀前期、”シェフの帝王にして帝王のシェフ”と呼ばれたアントナン・カレームでした。フランスを代表してウィーン会議に出席したタレーランに随行したカレームは、そこで開かれた夕食会を通じて、欧州中にその名を轟かせることになりました。

スフレは、家でも作ることもできますが、なかなかに面倒な代物であり、やはりレストランで食べるべきものだと思います。となると、なかなか口にはできません。そこで代用品が必要となり、一つはシフォン・ケーキということなります。ただ、食感としては、台湾カステラの方が、よりスフレに近いと思います。メレンゲを使うところはシフォン・ケーキと同じなのですが、焼き方が違います。台湾カステラは、蒸し焼きにするところが大きな特徴です。蒸し焼きと言えば、蒸しパンや馬拉糕が思い浮かびますが、これらはメレンゲではなく、ベーキング・パウダーを使って膨らませているところが決定的に違います。馬拉糕は大好物ですが、決してスフレの代用品にはならないわけです。(写真出典:kurashiru.com)