2025年8月31日日曜日

「バレリーナ」

監督:レン・ワイズマン 原題:From the World of John Wick: Ballerina 2025年米国

☆☆☆+

ジョン・ウィック・シリーズのスピンオフ作品です。シリーズは、2023年に公開され最大のヒットとなった4作目「ジョン・ウィック:コンセクエンス」をもって完結しています。ただ、どうも5作目も準備されているようです。人気シリーズだけに分かるような気もしますが、終わった話をどう展開するのかと気になります。本スピンオフの主人公は、3作目「ジョン・ウィック:パラベラム」に登場したルスカ・ロマの暗殺者バレリーナです。パラベラムでバレリーナを演じたのは、NYシティ・バレエ団の本物のプリンシパルであるユニティ・フェランでした。今回は、キューバ出身で、スペインで活躍した後、ハリウッドに移ったアナ・デ・アルマスが演じます。

アナ・デ・アルマスは、「ナイブス・アウト」で注目され、ボンド・ガールも務め、「グレイマン」等にも出演しています。2022年には、「ブロンド」でマリリン・モンローを演じ、アカデミー主演女優賞にもノミネートされました。順調にキャリアを積んでいる人気女優だと思います。本作で、あえて超過激なアクションに挑戦したことは、皆を驚かせたのではないかと思います。ただ、演出やカット割りに助けられているものの、アクションのキレがあまり良くないように思いました。ドラマではなくアクションが売りのシリーズですから、少し残念ではあります。本作は、シリーズ4作には到底及びませんが、ある程度ヒットしたので、続編が準備されているようです。続編では、さすがにアナ・デ・アルマスが続投するものと思われます。

ジョン・ウィック・シリーズは、複雑なストーリーは避け、極力キレのいいアクションで見せる映画です。マーベル系とは異なり、ほとんどCGを使わず、リアルな格闘を見せてくれるところが魅力です。とりわけ“ガン・フー”と呼ばれる銃とカンフーを組み合わせたアクションは、ジョン・ウィックの代名詞でもあり、人気の源泉でもあります。ただ、本作では、バレリーナの出自に関する説明をする必要があり、それをいかにこなすかも注目ポイントだったと思います。ストーリーの展開とともに、徐々に、彼女の出自や育ちが明らかになっていくというスタイルも考えられますが、今回は、冒頭から背景となる彼女の世界が一気に説明されています。後半のアクションが連続するシーンのテンポを確保するためだったのでしょう。

とは言え、冒頭から派手なアクション・シーンも展開されています。ただ、どうしても説明的にならざるをえない面があり、緩やかな前半と激しい後半という印象が残ります。加えて、前半のアクションは、ストーリー展開や物語の構図と直結していない面もあり、印象が薄くなります。このあたりが評価の分かれ目なのでしょう。後半のアクション・シーンでは、最もジョン・ウィックらしいと言える一人対大勢という構図が継承されています。オーストリア山中の雪で覆われた村という設定も良かったと思います。アクションも、ガン・フー・スタイルに加えて、火炎放射器での対決という斬新なアイデアも秀逸だったと思います。もっとも、このアイデアは、アナ・デ・アルマスのアクション・スターとしての限界をカバーする意味合いもあったのかもしれません。

ジョン・ウィック・シリーズは、実写版ゲームといった趣きがあります。単純な構図が示されるだけで、あとは戦うだけというわけです。シリーズの背景を構成する要素は、至ってシンプルです。世界中の暗殺組織を統轄するディレクターズ連合、その下部組織で聖域として機能するコンチネンタル・ホテル、同じ下部組織でバレエ団を偽装するルスカ・ロマ、そしてオーストリア山中を本拠とする謎の暗殺カルト集団、以上が全てです。そこに、外から、ロシア・マフィアやシチリアのカモッラが絡みます。一応、シリーズは完結しているものの、シンプルな構図を組み合わせれば、いくらでも続編は作れます。本作でルスカ・ロマの掟に背いたバレリーナの続編は、ルスカ・ロマと謎のカルト双方から狙われるバレリーナという構図が予想できます。(写真出典:ballerina-jwmovie.jp)