山椒はミカン科の低木ですが、日本原産と言われ、海外では”Japanese Pepper”と呼ばれます。その実、いわゆる実山椒は、ちりめん山椒など炊物に入れたり、佃煮にします。果皮は、乾燥させて粉山椒にし、鰻の蒲焼などの薬味になります。また、七味唐辛子にも入れます。若芽や若葉は、木の芽と呼ばれ、各種料理の添え物として、香りと緑を楽しみます。食べる前に手のひらで叩くと良い香りが広がります。また、味噌と和えて、豆腐に塗れば木の芽田楽になります。実をつけない雄花は、花山椒として、薬味や添え物として楽しみます。四川料理でよく使われる花椒(ホアジャ)と混同されがちですが、異なる植物です。さらに樹皮は乾燥させて漢方薬、保存食として使うようです。枝はすりこぎ棒になるとも聞きます。まさに余すところなく活用されるわけです。
山椒は、同じく日本原産のワサビとともに、和食にはかかせない名脇役です。ただ、ちりめん山椒では、じゃこと並んで主役を張っていると思います。ちりめん山椒は、昔から京都の保存食として存在したという説もありますが、一般的には、宮川町の料理人・晴間保雄から始まったとされます。晴間保雄は、ちりめん山椒を、自宅用、あるいは知り合いへお裾分けにする程度に炊いていたようです。1971年、晴間保雄が病に倒れると、家族が治療費の足しにしようと、家の玄関先でちりめん山椒を売り始めます。当初は、知り合いが買ってくれる程度だったようです。ところがジワジワとちりめん山椒の知名度は広がっていきます。ありふれた材料を使い、さほど手間もかからない料理だったことが拡散につながったのでしょう。
そのことが、晴間保雄の名前を埋没させることにもなりました。ちりめん山椒が知られるようになり、やがては京都名物になっていくと、いつ、だれが始めた料理なのかという疑問が生まれ、ようよう晴間保雄が知られることになったと聞きます。現在も「はれま」の本店は宮川町にあります。高台寺や祇園に支店を持ち、さらには一部デパートにも出店しています。商っているのはちりめん山椒と野菜昆布だけという潔さです。元祖だから美味いということはありませんが、今でも「しののめ」や「やよい」と並んで京都を代表するちりめん山椒として知られます。個人的には、はれまの野菜昆布も大好物です。昆布、れんこん、ごぼう、ちりめんじゃこ、山椒を炊いたものです。甘さを抑え、出汁と素材の味をしっかり利かせた絶品だと思います。
ちりめん山椒の一方の主役であるちりめんじゃこは、イワシの稚魚を塩で煮てから干した物です。天日干しにする際、ゴザに広げた様子が縮緬の生地に似ていることからちりめんじゃこと呼ばれます。じゃことは雑魚がなまった言葉であり、商売にならないほど小さな魚ということなのでしょう。しらすも、同じイワシの稚魚です。東日本で好まれるのは、釜揚げしらす、あるいは軽く天日干しにしたしらす干しです。一方、関西のちりめんじゃこは、かなりしっかりと干した乾物です。乾物と山の幸で炊くちりめん山椒は、海から遠い京都ならではの料理の一つと言えます。(写真出典:harema.co.jp)