2024年9月27日金曜日

湖南ミーフェン

中国四大菜系(料理)と言えば、北方系(北京料理等塩辛く濃い味)、東方系(上海料理等甘く濃厚な味)、南方系(広東料理等素材を活かした淡泊な味)、西方系(四川料理等痺れる辛さが特徴)となります。さらに八大菜系となると、諸説あるようですが、概ね山東料理(北京料理等)、江蘇料理(上海料理)、広東料理、四川料理という四大料理系統に、浙江料理、福建料理、安徽料理、そして湖南料理が加わります。福建料理は、台湾料理の源として日本人にも馴染みがあり、またあっさりとした味付けは日本人好みでもあります。長いこと気になっていたのは湖南料理です。四川料理は麻辣と表現されますが、湖南料理は、酸っぱくて辛い酸辣が特徴とされます。また、巧みに発酵を使うことでも知られます。

日本人にも馴染みのある湖南系料理としては、酸辣湯が挙げられます。アメリカでは、”Hot & Sour Soup”として、どんな田舎の小さな中華料理店にもある定番のスープです。ところが、かつての日本では、ほとんど見かけることのないメニューでした。私もアメリカで初めて食べました。日本で酸辣湯が知られるようになったのは、1990年代中頃、酸辣湯麺が人気を博したからだと思います。酸辣湯麺は、かつて赤坂にあり、現在は神楽坂に移転した「榮林」が発明した日本式中華料理です。湖南や四川で酸辣湯に麺を入れることはありません。ましてや小麦の拉麺などあり得ません。酸辣湯麺に似た味の麺料理はありますが、使うのはあくまでも伝統のミーフェン(米粉)やミーシェン(米線)ということになります。

最近、都内には湖南料理店がいくつかできているようですが、かつての東京ではごくごく希な存在でした。知る限りでは、京橋の“雪園”、あるいは芝の”味芳斎”あたりでしょうか。酸辣湯麺の榮林も湖南料理店というわけではありません。雪園では、何度か宴会を行ったことがあります。美味しい店ですが、ごく普通の中華料理だとばかり思っていました。味芳斎は、味に深みのある美味しい店ですが、メニューによっては辛すぎて、泣きながら食べていました。味芳斎の強烈な辛さこそが湖南料理なのでしょう。ただ、残念ながら、サラリーマン相手の味芳斎では、メニューに限界があり、本格的湖南料理店とまでは言えないように思います。結局、ごく最近まで、本当の湖南料理にはお目にかからなかったということになります。

錦糸町の「李湘潭 湘菜館」は、中国湖南料理を看板に掲げる店です。ただ、日本人向けに辛さのハードルは下げているものと思われます。この店は、10年前のオープン当初から、湖南のソウル・フードであるミーフェンをウリの一つにしていたようです。東京の湖南料理店では初めてのことだったと聞きます。神保町の蘭州牛肉麺・馬子禄では、9種類の麺のタイプがあり、注文が入ってからミーフェンを打つ本格派ですが、湘菜館はミーフェン・ミーシェン2種類の自家製乾麺を使っています。モチッとして、ツルッとした麺はとても美味しいと思います。馬子禄の牛肉スープに対して、湘菜館のスープは豚骨・鶏肉がベースです。発酵の酸味と香りの良い辛味の効いたスープはクセになります。ミーフェンは、多様な食べ方が提供されていて全部食べてみたくなります。

中国北部の小麦文化では饅頭や餃子が主食となります。一方、米作発祥の地でもある長江以南の南部では米食が中心となります。ミーフェンも、中国南部の各省のソウル・フードとなっているようです。特に、桂林米粉、雲南の過橋米線、福建や台湾のビーフンなどが良く知られています。ちなみにビーフンはミーフェンの方言なのだそうです。数年前、丸亀製麺でお馴染みのトリドールが買収し、日本にも進出した香港の大人気ミーシェン店が「譚仔三哥(タムジャイサムゴー)」です。新宿店は、いつも大行列です。ただ、個人的には、深みにも、面白味にも欠けるスープだと思います。今のところ、馬子禄と湘菜館のミーフェンがベストだと思っています。特に湖南ミーフェンの酸味と辛味はクセになる美味しさです。(写真出典:tabelog.com)