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昭和初期の浅草六区 |
江戸期の奉公人の休日は、年2回の藪入りだけではありません。例えば、5の付く日とか、業界によって休業日がありました。オフィスワーカーだった江戸期の武士に至っては、数日に一度、お城へ出仕すれば事足りました。他の時間は、鍛錬や学問に充てられていたのでしょう。日曜休日制は、明治時代になってからの制度です。不平等条約改正のために、欧米に劣らぬ国の姿を見せるためだったと思われます。そもそも日曜休日制は、キリスト教の文化です。キリスト復活の日の翌日が日曜だったことから、日曜にミサをあげる習慣ができました。古代ローマがキリスト教を国教化したことで、欧州全域に広がりました。他の宗教の定める休日は異なっています。条約締結国がキリスト教国ばかりですから、妥当な判断だったとは思います。
日本人は働きすぎと言われますが、週休2日制は定着し、祝日はアメリカよりも多いわけです。ということは、休暇の取得と残業時間が問題ということになります。有給休暇の日数について言えば、フランスはじめ欧州の5週間にはかないませんが、日本の20日間は、アメリカやカナダより上です。問題は取得率です。欧州の100%に対して日本は先進国中最低の50%程度です。日本人が有給休暇を取らない理由の1位は、何かあった時のために残す、ということだそうです。欧州の場合、傷病休暇は、有給、もしくは社会保障が給付されます。アメリカでは、企業保険でカバーすることが一般的です。この違いが大きいと言えます。政府は、有給休暇の取得義務よりも、傷病休暇の有給化に取り組むべきだったと思います。ただ、こちらの方が、企業負担が増えますので、避けたのかも知れません。
日本人が有給休暇を取らない理由の2位は”人手不足”、3位は”やる気を疑われる”となっています。いずれも職場の空気の問題なのだと思います。アメリカは個人主義、対して日本は組織主義と言われますが、日本の伝統的組織とは家父長組織です。近年、日本の労働生産性の低さが批判されますが、曖昧な意思決定プロセス、不明確な権限規定の運用など、家父長制的な伝統に原因があるものと思われます。雇用は、契約関係ですが、欧米の場合は職務が特定されているから契約が成り立ちます。日本では、ゼネラリスト指向が強く、企業への”奉公”といった色合いが残っています。かつて高度成長を支えた”滅私奉公”の文化は薄れてきましたが、無くなったわけではありません。無論、そのすべてが悪いとは思いませんが、技術革新とグローバル化が進む競争環境にあっては、デメリットの方が多いように思います。
戦後、労基法が整備されると、藪入りは消滅しました。しかし盆暮れの帰省という文化は根強いものがあります。フランスのヴァカンス、アメリカの夏とクリスマスのヴァケーション、中国の春節と国慶節、などと同様に、日本も、カレンダーに左右されない大型藪入りを制度化してもいいのではないでしょうか。(写真出典:asakusakanko.com)