2020年5月14日木曜日

ギヨエテ

1920年代、アメリカを放浪した谷譲次は、カリフォルニアの日系移民は、耳で聞いた英語をそのままカタカナにする、と書いています。例えば、サンドイッチは「サミチ」、チケットは「テケツ」という具合です。1903年創刊、ロスアンジェルスの日本語新聞「羅府新報」では、今でも、同じようなカタカナを見かけます。例えば、"San Fernando Valley"ですが、日本では「サンフェルナンド・バレー」、羅府新報では「サンファナンドバレー」となります。

日本では、アルファベット表記をカタカナ化する際、耳で聞いたとおりではなく、ローマ字読みをカタカナ化する傾向があります。例えば電池は”Battery”ですが、カタカナは「バッテリー」、米国人の発音は「バラリー」と聞こえます。この方が、確実に通じます。日本人の英会話力を落としている一因がここにあり、日本の言論界、特にマスコミの責任は大きいと思います。米国人と話すとき、ローマ字読みカタカナ以上に困るのは、実は漢字です。中国の固有名詞ということですが。

海外で「もうたくとう(毛沢東)」と言っても、誰にも通じません。日本にいる限り、「マオ・ツォートン」など聞くことも話すこともありません。本当に困りものです。世界各国の固有名詞は、現地主義が採用されています。つまり、現地の発音で表記するということです。ただし、漢字を共有する日本と中国は相互主義、つまりそれぞれの発音を採用しています。中国人が「アンペイ・チンサン(安倍晋三)」と言っても、世界では通じないわけです。困りものです。早期に現地主義化し、漢字とカタカナ併記方式にすべきだと思います。

韓国とも84年までは相互主義でした。韓国の固有名詞は、ハングルの背景に漢字があるからなのでしょう。父親は「ぼくせいき(朴正熙)」大統領、娘は「パク・クネ(朴槿恵)」大統領と発音されるわけです。ただ、発音は現地主義になっても、表記は漢字を使っている場合もあります。例えば共同通信は漢字主義です。ゴルフ・プレイヤーなどは、登録名を使うので、本人がカタカナ登録すれば、共同通信もカタカナ表記します。これもややこしいので、韓国はカタカナ一本でいいのではないでしょうか。

「ギヨエテとは わしのことかと ゲーテなり」文明開化時の翻訳の混乱を風刺した川柳です。ま、「ゲーテ」も海外では通じませんけどね。
羅府新報  写真出典:SavelG